大判例

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東京高等裁判所 平成11年(う)2242号 判決

被告人 葉山謙二

〔抄 録〕

本件は、二件のいわゆる無銭宿泊の事案であるところ、起訴状及び追起訴状に公訴事実として記載され、かつ、原判決が認定した各欺罔行為(欺く行為)及び被欺罔者(欺かれた者)の錯誤の内容は、いずれも、要するに、「被告人は、宿泊当日、ホテルのフロントにおいて、ホテル従業員に対し、宿泊代金及び飲食代金等をチェックアウト時に確実に支払う意思も能力もないのに、これあるように装って宿泊手続をし、右従業員らをしてその旨誤信させた」というものであって、宿泊代金等の支払い者が何人であるかはホテル側にとって重要な事実であり、ホテル側においては、特別の事情がない限り宿泊代金等は宿泊者自身が自らの責任において支払うものと信ずるのが当然であることを考えると、原判決は、被告人が宿泊者である被告人自身に宿泊代金等を支払う意思及び能力があると装い、ホテル従業員らにおいてもそのように誤信したと認定しているものと解される。しかしながら、原審で取り調べられた関係証拠によれば、被告人は、いずれの件についても、前日にホテルに電話をし、応対に出た従業員に対し、甲(偽名)と名乗って、「自分(甲)にとって大切な人である乙(偽名)が明日から二泊する」と言い、さらに、原判示第一については、「宿泊代金等はチェックアウトまでに乙に渡しておき、乙を介して自分が支払う」旨、同第二については、「宿泊代金等はチェックアウトの時に自分が支払う」旨、うそを言って、右従業員に宿泊代金等は実際に宿泊する乙(被告人)ではなく予約した甲が責任を持って(直接又は乙を介して)支払うものと誤信させた上、宿泊当日、フロントにおいて、引継ぎを受けて同様に誤信しているホテル従業員に対し、「甲に予約してもらった乙である」と名乗って宿泊手続をしたことが認められる。右によれば、いずれの件についても、被告人は、宿泊手続に際し、宿泊代金等は別人である甲が支払い、自らは宿泊代金等について支払いの責任を負わない旨を表明しているというべきであって、原判決の認定するように自らこれを支払う意思があるとか被告人自身にその支払能力があると装ってはおらず、ホテル側においても、宿泊代金等は実際に宿泊する被告人ではなく予約した甲が直接又は被告人を介して支払うものと誤信したことが明らかである。言い換えれば、被告人は、別人である甲が実在し、甲に支払いの意思及び能力があるとうそを言い、ホテル側においても、そのように信じた点に錯誤があることになる。しかも、ホテル側がそのように誤信したのは、主として前日の電話によるのであって、右電話は無銭宿泊の犯意に基づくものであるから、これをも欺罔行為ととらえるのが相当である。そうすると、原判決が認定した事実と前記証拠によって認められる事実とは、欺罔行為及び被欺罔者の錯誤の内容においてそごすることとなり、原判決は、これらの点について事実を誤認したものというべきである。そして、その食い違いの程度にかんがみると、訴因変更手続を経由することなく、証拠に現われた右事実を認定することは許されないというべきであるから、右事実誤認が判決に影響を及ぼすことも明らかである。

(安廣文夫 羽渕清司 金谷暁)

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